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鹿児島県内のウミニナ類の分布と形態比較

佐藤 海・冨山清升

Abstract / Introduction / Summary:

鹿児島県に分布する軟体動物(貝類)の総種数は,非常におおざっぱな概算でも4,000種を超えると言われており(行田,2003),陸産・淡水汽水産の軟体動物に限っても,少なくとも1,000種以上の種が生息していると推定される.(鹿児島県環境生活部環境保護課,2003)しかし淡水域や汽水域の調査が十分でないこともあって,どれだけの種数の陸産・淡水汽水産貝類が鹿児島県に分布しているのかその実態は不明な部分が多い.鹿児島湾内の河口・干潟における巻貝相の研究はこれまで行われてきたが,鹿児島湾外の河口・干潟における巻貝相の研究は行われてこなかった.そのため本研究では鹿児島湾内と鹿児島湾外の巻貝相の一端を明らかにするために分布の生息状況調査を行った.さらに今回の調査により,多くの調査地から生息が確認された種に関してはその生息状況を詳しく記載した.特にウミニナ,フトヘナタリについては干潟の標徴種であることから種の生息状況を地図上にプロットした.さらにウミニナ(Batillaria multiformis)に関しては殻高と殻幅を測定し,鹿児島湾内の個体と鹿児島湾外の個体で殻の殻高と殻幅の比率にどのような違いがあるか多重比較検定(Shceffe法)により殻の比較を行った.これにより,本研究では鹿児島湾内と鹿児島湾外における巻貝の分布状況の一端を明らかにするとともに,ウミニナの形態に関して,鹿児島湾内と外洋に面した鹿児島湾外で差があるのかどうか検討した.調査地の選定は「鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 鹿児島県レッドデータブック」(鹿児島県環境生活部環境保護課,2003)において鹿児島県の重要な干潟として記載されている河口域,海岸を参考にした.調査では2010年3月から11月にかけて大潮の干潮時刻に採集を行った.調査方法は調査地の干潟,河口域,海岸にて見つけ取りで,なるべく多くの種の巻貝を採集するようにした.形態比較を行うウミニナに関してはなるべく個体数が多くなるように採集した.採集した個体は研究室内に持ち帰り,同定を行った.ウミニナに関してはノギスを用いて殻高と殻幅を0.1 mmまで計測し,記録した.その結果,鹿児島湾内外合わせて4目10科19種が採集された.そして河川毎の種の生息状況から,ヘナタリ,カワアイなどの比較的環境劣化に弱いとされている種の生息地は減少してきていることが分かった.鹿児島湾内外においてウミニナの生息を広く確認することはできたが,それに比べてフトヘナタリの生息地は少なかった.フトヘナタリはウミニナに比べて環境の劣化への耐性が弱いことからフトヘナタリの生息地を失わせるほど汽水環境が悪化している可能性がある.ウミニナの殻の形態比較では今回の結果からは,鹿児島湾内と鹿児島湾外で殻の形態に違いは見られなかった.しかし,思川と本城川の個体間で殻の形態で有意な差があった.本研究ではこの殻形態の違いの原因を明らかにすることはできなかったが,思川と本城川の生息地において栄養条件が異なり,それが殻の形に影響している可能性が考えられる.今後の課題として,生息地の水質や栄養量,底質などの違い殻の形の成長にどのような影響を及ぼすか調査研究が必要であろう.な影響を及ぼすか調査研究が必要であろう.