/ 034-001

北薩地域のタナゴ類の分布と二枚貝の利用について

稲留陽尉・山本智子

Abstract / Introduction / Summary:

タナゴ類とは,コイ科タナゴ亜科に属する魚 類で,国内に 3 属 17 種・亜種,世界では約 40 種 の生息が確認されている.鹿児島県の北薩地域は, アブラボテ Tanakia limbata の国内分布の南限とさ れ,その他にヤリタナゴ Tanakia lanceolata とタ イリクバラタナゴ Rhodeus ocellatus ocellatus の生 息が確認されている(薩摩半島南部にある山川町 の鰻池にはニッポンバラタナゴが生息するとの情 報もある). これらのタナゴ類は,二枚貝を産卵床として 利用することが最大の特徴であるが(図 1),利 用される貝類には,カワシンジュガイ科 2 種,イ シガイ科 15 種が国内で知られている.このよう な繁殖生態を持つタナゴ類では,在来種と移入種 の競合,移入種による在来種の駆逐,同一の二枚 貝に複数種のタナゴ類が産卵することによる種間 交雑等が古くから問題視されてきた. これらの問題が従来の生態系へ影響を与える ことが表面化してきたことで,平成 16 年には外 来生物法が施行された.これは,問題を引き起こ す海外起源の外来生物を特定外来生物として指定 し,その飼育・栽培・保管・運搬・輸入といった 取り扱いを規制し,特定外来生物の防除等を行う 法律である.タナゴ類についても,元来日本での 生息が確認されていなかったタイリクバラタナゴ やオオタナゴ Acheilognathus macropterus の生息が 確認されており,これらの種は,規制は受けない が取扱いに注意を要するとされる要注意外来生物 に指定されている.また,アユやウナギの各地域 への放流に伴い,生息の確認されていない河川へ のタナゴ類の分布も拡大しているが,このような 種は国内移入種と呼ばれ,同様の問題を引き起こ す可能性を危惧されている.北薩地域においても, 在来のアブラボテ以外に,ヤリタナゴ(国内移入 種)やタイリクバラタナゴ(国外移入種)の生息 が確認されているが(図 2),その詳細な分布調 査は行われていない. そこで本研究では,アブラボテの生息が確認 されている北薩地域を中心にタナゴ類の分布を詳 細に調べ,同時に各種の二枚貝の利用状況を明ら かにすることを目的とした.